BDフェニックスは、グラム陽性菌のうち、腸球菌で平均3時間以内、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含むブドウ球菌については平均5時間以内で同定可能で、グラム陰性桿菌の腸内細菌でも平均3時間程度で同定できる。また、薬剤感受性についても平均10時間から15時間程度で試験終了でき、MRSAや、ESBL等の耐性菌は平均6時間程度で耐性判断が可能で、中間報告が可能である。これまでの血液培養検査から同定試験、薬剤感受性試験といった一連の流れで3〜4日程度かかるとされる時間を大幅に短縮できる。臨床側にとっては抗菌薬の適切な選択につながり、治療の向上とともに、経済的なメリットも大きい。
ただ、こうしたシステム導入で可能となる報告までの時間短縮メリットを生かすには、基本的に日勤帯で動く検査室業務の見直しが必須。一方で限られた人員で効果的に永続的に、迅速報告という臨床支援を提供する意味からは、効率的な報告体制も必要だ。
この点を踏まえ微生物検査室では、午前中にBDフェニックスに検体をセッティングすることで検体提出の翌日に同定が報告できるように、午前7時30分からの勤務シフトを設定した。このシフト設定で午前中の早い時間に装置へのセッティングができ、同定だけでなく、感受性試験の結果についても中間報告が可能になった。
BDフェニックスでの解析結果については感染症情報システムに測定が終了した薬剤毎にリアルタイムに反映されるため、夜間帯など微生物検査室の職員が不在の場合でも、臨床医は確認が可能。確定できた検査結果ではない中間報告であっても、臨床にとっては有用な情報となる。このため結果的に誤判定でも、納得を得てもらう関係づくりも進めた。装置による正確性だけでなく、用手法によって行う検査精度も微生物検査室の担当者ごとに数値化して提示。誤判定の可能性を念頭に置いた上での中間報告結果の活用が可能な体制を確立した。
高橋氏は、多くの医療機関の検査部門では、検査結果が確定するまでデータを提供することはないとした上で、「技師個々人についてコンタミネーション率や顕微鏡観察結果などの精度を数値化して示している。中間報告のデータはいわゆる垂れ流しになるが、データ精度の根拠を提示することで、精度を考慮した上でのデータ活用が可能になる」と話す。
臨床医サイドでも、感染症情報システムを通じてリアルタイムに報告されるデータへの意識が向上した。臨床側の意識の高まりも後押しするかたちで、緊急を要するような感受性試験データの報告については高橋氏をはじめとする微生物検査室の職員が夜間・休日に出勤して薬剤感受性試験の結果を報告している。その結果、早ければ翌日の薬剤感受性試験結果までの報告が可能になった。