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長崎みなとメディカルセンター市民病院
微生物検査室、迅速報告体制に切り替え

血液培養は夜間・休日でも“対応”
長崎みなとメディカルセンター市民病院 臨床検査部 木下 和久氏・山口 将太氏
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2016年5月1日

写真:木下氏
木下氏
 長崎市立病院機構 長崎みなとメディカルセンター市民病院(413床)は、長崎市の中核病院として2014年、旧 長崎市立市民病院から新病院として名称も新たにスタートし、さまざまな機能を担っている。微生物検査室では同機構の成人病センターと16年3月に統合したことから、その機能の一部である結核病棟や感染症病床の運用も視野に入れた検査手順や方法の構築が必要であった。微生物検査室では迅速報告を重要課題と位置付け、システムや、検査機器の大幅な変更を行った。現在、新たな耐性菌の出現(CRE等)やアウトブレイクへの対応、ICT活動など微生物検査(技師)の重要性はさらに増している。

病院紹介

【写真】微生物検査室の皆さん(向かって右端が山口氏)
微生物検査室の皆さん(向かって右端が山口氏)
 長崎みなとメディカルセンター市民病院は、(1) 救命救急医療 (2) 高度先進医療 (3) 小児・周産期医療 (4) 政策医療—の4つを柱とする医療を展開している。そして地域医療支援病院や災害拠点病院(地域災害医療センター)、地域がん診療連携拠点病院、地域周産期母子医療センター等の指定病院である。また、35の診療科を有し、職員は医師105人、看護師463人などである。
 臨床検査部は、部長と臨床検査技師、検査補助者の総勢34名で構成され、宿・日直制を導入し24時間、365日検査対応を行っている。また、迅速な結果報告やコスト意識を持った業務を心掛け、さらに、各種認定等は延べ31取得、施設認証・認定は3部署が取得し、臨床検査技師(部)の知識や技術は年々レベルアップしている。

血液培養陽性時の対応

 血液培養検査に関しては、夜間、土日、祝日ともに微生物検査室担当者以外でも当番者が血液培養自動分析装置「BD バクテック FX システム」に装填し、培養を行っている。当院での血液培養陽性時間帯を調査したところ、夜間、土、日、祝日の微生物検査担当者不在時に陽性となる割合が84%という結果となった。そのため、微生物検査担当者が不在となる時間帯でも、血液培養陽性処理を行い報告している。
写真:ボトル
 セット採取されたボトルは“セット”タグを付けた輪ゴムでまとめ培養を行っている(写真)。血液培養陽性時の対応は、陽性ボトルとセット採取されたボトルがタグで一目瞭然となっているため、一括処理が容易である。
 また、業務終了間近で培養陽性となったボトルの結果報告は翌々日になるため、国立病院機構京都医療センターの福田氏らが行っている方法の一部を取り入れた。陽性ボトル内容物を分離剤入り採血管に採取し遠心分離を行い、分離剤上部に集まった菌を滅菌スピッツに採取し、数回滅菌蒸留水で遠心・洗浄する。遠心後、得られた沈渣を用いBD フェニックス システムで同定・感受性検査を実施した。この方法は30分程度の時間で済み、結果は従来法と変わらない良好な結果が得られたため、日常業務に導入した。これにより、翌朝の感受性検査報告が可能となった。
 臨床検査部は宿直制を導入し、夜間のさまざまな緊急検査等へ対応しているが、微生物検査業務としてはイムノクロマト法を用いた迅速検査以外に、診断的価値の高い血液培養の受付・培養と血液培養陽性時の処理も行っている。BD バクテック FX システムは、培養陽性時には赤いランプが点灯することから、宿直者が隣室で作業中でも、部屋を区切るガラス壁を通し、培養陽性に気付けるよう機器の設置場所を考慮した。
 宿直者は、培養陽性ボトル以外に、セット採取されたボトルも同時に処理を行う。当検査部の血液培養陽性時処理マニュアルに従い、内容物のグラム染色鏡検・報告と平板培地(血液寒天培地、DHL寒天培地、コロンビアCNA血液寒天培地)での培養までを実施している。グラム染色の結果からは可能な限り菌種の推定と陽性本数の報告を行う。これらによる迅速報告による効果として、感染症の有無や使用抗菌薬の確認・選択や見直しが可能となり、臨床側からの期待や反応は大きい。
 また、平板培地での培養も行っていることから、微生物担当者が朝一番で同定・感受性検査が実施可能である。これにより同定検査は数時間後、感受性検査結果は夕方ごろには80〜100%完了しており、MRSAやESBL産生菌の迅速報告も行える体制になっている。
 以上のように血液培養陽性時における分離剤入り採血管使用や宿直者による陽性ボトル処理により、12〜24時間の大幅な報告時間短縮が可能となっている。
図:血液培養陽性時における迅速報告例

臨床とのコミュニケーション

 微生物検査を担当する臨床検査技師は、臨床(特に医師)との関わりが多いのは血液培養陽性報告時である。過去には電話連絡をすると、検査結果がいつ出るのか?という質問が多く、それ以上の検査情報に興味を示すことは少なかった印象がある。しかし、血液培養検査の迅速化を進めると同時に血液培養陽性報告内容を培養陽性までの時間、陽性ボトル数(例えば4/4本陽性)、溶血の有無、ガス産生の有無、同日提出検体(尿など)の塗抹情報を提供するようになってからは、臨床の反応が変わってきた。
 問い合わせ内容が今までとは違い、検査結果に関することに変わり、コンタミネーションの可能性の有無や、考えられる血液への侵入門戸の情報、抗菌薬のアドバイスを求めてくる医師が増えてきた。根気強く詳細な情報提供を続けていったことで、最初は興味を示さなかった医師も、われわれが提供する情報に興味を持ってくれるようになった。
 臨床とのつながりをより一層強くしていくために、臨床検査技師側からの情報提供をさらに詳細に報告してもいいのではないかと考えている。最初の血液培養陽性報告時に、すでに抗菌薬の選択が間違っていたならばアドバイスを行い、最終結果報告時にも広域抗菌薬から狭域抗菌薬へのde-escalationを提案してみることも今後は取り組んでいきたいと考えている。

将来に向けて

 現在、血液培養結果の問い合わせは年々増加しており、血液培養検査への関心の高さがうかがえる。今後も、より早い同定・感受性結果報告が求められるであろう。BD フェニック スシステムの同定・感受性検査は、検査が完了した同定菌名、および薬剤から順次検査システムへ結果送信されるため、結果が出次第、上位システム(電子カルテ)へ報告を行うリアルタイム報告が可能である。しかし、検査技師不在時での実現に向けては、コンタミネーションや複数菌発育等による間違いが生じる可能性について、臨床側とのコンセンサスを得る事が課題となる。  今後は血液培養だけではなく、さまざまな材料から検出された起炎菌の迅速報告も検討していく予定である。そのためにはコスト維持・削減を意識しながら、新しい検査機器や方法、試薬の導入などを視野に入れた検査システム構築を考えていく必要があるが、同時にこれらの新しい試みが、病院全体の利益に貢献するかどうかの評価も進めていきたいと考えている。