図3:ICUにおけるCLABSI発生率(2009年4月~2011年3月)
Q:医療器具関連感染サーベイランス(Japanese Healthcare Associated Infections Surveillance : JHAIS)に参加したきっかけを教えてください。
西内:JHAIS のサーベイランスは、国内のベンチマークデータを提示しています。今以上の感染予防対策の質検討と向上を目指していくためには、モチベーション維持のためにも国内施設のサーベイランスデータとの比較を行い、相対的に医療器具関連感染の発生状況を評価していきたいという現場の意見を受け、上層部にも肯定的に承認していただきました。
また、JHAIS のベンチマークデータは、今までに当院で蓄積してきたNHSN(National Healthcare Safety Network)の判定基準と感染率の算出方法を用いたベンチマークデータが活用できることもあり、迷わず参加を決定しました。NHSNのデータは海外のものであり、医療背景が大きく異なるため、国内の施設との比較を行いながら感染の発生状況を評価していくことに意義があると考えています。
Q:JHAIS のベンチマークデータとの比較から分かったことはありますか?
西内:CLABSI は2009年度からの感染率を追跡し、他の施設と比較して感染率は低い(中央値より低く最小値)一方でカテーテル使用比が高い(中央値を超え、さらに90%パーセンタイル値を超える)ことも分かりました(図3)。毎朝ICUのカンファレンスで抜去できるカテーテルはないかを検討し、可能なかぎりカテーテルを抜去するように努力されています。
カテーテル使用比が高くても、感染率が他の施設に比べて低いという結果は、感染リスクは高くても、質の高いカテーテル管理が行われているという見方ができますので、スタッフの自信や励みになり、さらなる質向上への動機付けや意欲につながっていると思います。感染率が低いということに甘んじず、感染症例だけでなく、感染を疑う事例についても共有して、感染対策や血液培養検体の採取方法の再確認と改善のサイクルが上手く機能するようになっています。
VAPについては、NHSNのベンチマークデータのみで当院と比較していたときは、医療背景の異なる国外の数値と比較するから感染率が高いのではないかと考えていたのですが、JHAISの国内のベンチマークデータと比較しても、やはり継続して中央値を超える高い位置にあるということがわかってきました。現場は当施設のベースラインを越えないように、またこの先はもっとVAPの発生を減らしていきたいという目標を持ち、昨年から集中ケア認定看護師や摂食・嚥下障害看護認定看護師とも協働して口腔ケアプログラムや誤嚥予防対策の再評価を行っています。