合同カンファレンスの模様
順天堂本院と5 つの分院のIC T が一堂に会して事例と対策を報告し、
自由な雰囲気の中でディスカッションする。堀先生は司会に徹して
会場の意見を引き出し、最後に専門家の立場からアドバイスを述べる。
図2:1000 患者あたりのアルコールジェル使用量の推移
図3:延べ1000 患者あたりのMRSA 分離率の推移
Q3. 同じ法人内とはいっても規模の異なる6病院が集まっての議論がうまく噛み合うものでしょうか。
堀:それについてはいろいろシミュレーションを重ねました。たとえば現在の連携の一般的な方法は、互いの施設を訪問して耐性菌の発生状況、手指洗浄や清掃の状況などをチェックし、改善点などを指摘しあうことですが、これではともすればその場限りの対応に終始してしまい、スタッフの異動などがある中で、知識や経験の継続と蓄積がうまく進まないことが危惧されます。
また、病院の規模が違えば問題の規模も異なってきます。病床数が大きく違う病院間で単純にMRSAの発生件数だけを比較してもあまり意味はありません。私は「6病院が同じ認識を持てる共通指標がないだろうか」と考えました。共通指標にはプロセス評価の指標とアウトカム評価の指標の2つがあり、たとえば、手指衛生のプロセス評価の指標としては世界的によく用いられている1000床あたりのアルコールジェルの使用量、アウトカム評価の指標としてMRSAの分離率を用いています。アルコールジェルの使用量が多いほどMRSAの分離率が低くなるという論理であり、水平伝播についてのこの2つの共通指標を用いて議論することで、病院規模に左右されずに正確な分析ができ、他施設との比較や国際的な比較も容易です。
この1000床あたりのアルコールジェルの使用量という共通指標を導入したところ、本院と分院の使用量に大きな幅があったことが判明しました。これを一目瞭然のグラフにしたことで分院の意識が高まり、現在の使用量は本院に近いレベルにまで上がってきています。図らずもベスト・プラクティスとなった本院の数字が他の5病院の目標値(ベンチマーク)となったわけです。アルコールジェル使用量が全体として上がったことでアウトカムにもよい効果をもたらしており、実際に、使用量が向上したある急性期病院では、院内全体のMRSA 分離率が低下しました(図2・3)。
プロセス指標としてはさらに、「病棟環境監査ツール」という順天堂医院独自の約70項目チェックリスト(表1)を作っており、ICNが訪問しあってチェックし、それをもとにラウンドしています。それぞれの項目についての達成率を比較でき、問題点をあぶり出すことができると考えています。
一方、評価項目としては、対象となっている抗菌薬の届出率、1000床あたりの血液培養の提出率、血液培養2セットの提出率、抗菌薬の系統ごとの抗菌薬使用密度(AUD)です。こうした指標があれば、分院それぞれの現状と改善の度合いが客観的に視覚化でき、把握も容易になります。
アウトカム評価指標としては、前述したMRSAの分離率に加えて、あくまで2次的なものですが、黄色ブドウ球菌の血流感染におけるMRSAとMSSAの比率と、主要起因菌の耐性率を検討しています(図4)。こうしたデータを揃えることで、たとえば、ある病院で特定の抗菌薬の使用量が多く、また、その抗菌薬に対する耐性率が高いことが判明した場合には、なぜその抗菌薬が多く使われているのかをダイレクトに尋ねやすくなりますし、他施設のデータと比較しつつ、自分たちで改善を促していくよい機会にもなります。
なお、これまでの検討により、AUDと耐性率が必ずしも相関していないこともわかってきており、何を普遍的な共通指標とするかを選定して提案していくことが私の仕事のひとつになってきます。