Q1 佐賀大学医学部感染制御部の設立の経緯についてご説明ください。
私の専門は呼吸器内科でしたが、米国留学から戻った1997年に研究継続のために院内の血液培養陽性(菌血症)患者の診療状況と予後を調査した結果、血液培養採取時に敗血症性ショックを起こしていた患者が32%に上り、また、34%が28日以内に亡くなっていたことがわかりました(表)。血液培養採取のタイミングが遅く、状態が悪くなってから取り掛かっていたことで対応が後手後手に回ってしまっていたのです。検査部から血液培養陽性報告を受けて病棟に行くと「今朝、亡くなりました」と伝えられたこともあります。
『これでは大学病院とは言えない』との思いから感染症診療部門の立ち上げを提案しました。私の知る限り、当時の日本には院内の感染症を横断的に診る部門としての感染症科を有する大学病院はなく、まさに各診療科の谷間でした。また、血液培養採取も根付いていませんでした。
最初は検査部で感染症診療を開始しました。医療情報部門から「感染症診療を始めてから菌血症が増えています」とも言われましたが、「それは増えているのではなく、多くを見つけているのです」と説明しました。約600床の当院における菌血症の年間発生件数は2016年をピークに、その後プラトーになってきた頃には敗血性ショックも28日死亡率も低下し、患者の生命予後は大きく改善しました(表)。血液培養陽性者に早く確実なケアを行うことで付随的にさまざまな効果が出てきたのです。血液培養陽性検出例が一定の数に落ち着いたことで、私も『院内の菌血症をほぼ捉えているだろう』と思えるようになってきました。
2002年に感染対策室を立ち上げ、翌2003年に感染症コンサルテーション診療を始めました。相談は感染症に限らず、発熱に関するものが多かったです。当初はコンサルテーションの依頼もそれ程多くありませんでしたが、2~3年後には「あそこに相談すれば解決してくれる」と実感してもらえるようになり、現在では年間600~700件の依頼があります。
2007年に現在の感染制御部になりました。スタッフは私を含め専従医師4人、専従の感染管理看護師(ICN)1人、専従の薬剤師1人の6人体制です。看護師が中心となって院内感染対策に取り組んでおり、例えばICUなど院内各部署をチームで回り、標準予防策や接触予防策が遵守されているかチェックしています。また、全国でもかなり早く専従薬剤師を置いており、医師同様にコンサルテーションや研修医の指導を担っています。抗菌薬以外の薬剤との相互作用や腎機能低下患者における用量調節などについても、かなり専門的に対応することができています。
毎朝、前日にコンサルテーション依頼を受けた入院患者を全員で訪ねてラウンドを行っています。互いに「こうした問題があって相談を受けているが、どんな感染症が考えられるか」「感染症でないとしたら、発熱の原因は何か」などの問いかけをしています。抗菌薬について議論するのはその後であり、抗菌薬が必要な発熱か、そうでないかを鑑別する能力を養うことが重要と考えています。週1回の全体カンファランスとラウンドでは、直近のコンサルテーション例について全員でレビューしています。