川上 小夜子先生
Q2.参加医療機関が急激に増えてきたことでのデータの精度管理はどうされているのでしょうか
筒井:参加医療機関が急激に増えてきたことでデータの質が低下してしまわないように注意しています。検査体制が十分でない施設から誤ったデータが送られてくれば全体の信頼性にも大きく影響してしまうので、データの精度管理は我々の大きな仕事の一つになっています。逸脱していると思われるデータを送ってきた参加医療機関にはメールやハガキ、電話で問い合わせており、それでもデータ確認・修正の対応をしないところは集計対象外にしています。
川上:決して多くはありませんが、「この施設ではどういう精度管理を行っているのかな」と思うことはありますね。細菌検査に慣れていないスタッフが行っていることもあるようです。
筒井:バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)など、世界的にもまれで、現在までにわが国で分離されていない耐性菌のデータを送ってきた参加医療機関にはすぐにアラートメールを送っています。当該施設では遅ればせながら「当院でVRSAを検出しているのか」と気づくのですが、多くはコンタミネーションによる誤報告のようです。
矢原:アラートメールの頻度は、参加医療機関の増加とともに増えていますね。
川上:検査部門のデータ提出は月1回なので、特殊な耐性を示す菌株であっても保存されていない場合が少なくなく、確実に否定できないのが実情です。この点で、タイムリーに再検できるような体制を構築していただければと思います。また、特に新規参加の医療機関では、JANISデータへの変換がきちんとできていないことが多いです。
Streptococcus pyogenesやStreptococcus agalactiaeなど自動分析装置を使わずに用手法で検査している場合は、検査結果の誤入力もあるようです。細菌検査室によっては、検査手技そのものが怪しい場合もあるかもしれません。
筒井:我々は前述の方法でデータのクリーニングをしているのですが、疑わしいデータをすべて拾い上げているわけではありません。各施設の検査の質をどう担保するかについては深く関われていないのが実情です。全国的な検査の質の底上げについてはJANISだけでできることではなく、たとえば日本臨床微生物学会や臨床検査技師会などと協力することが必要になってきます。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)がMRSA並みに蔓延しているのではないかと思っている施設もあるなど、「分離されてはならない耐性菌」の認識にややばらつきがあります。JANISでは耐性菌のリストを作っており、「カテゴリーA(国内で分離されていない)」の耐性菌が分離されたら再検査し、再検後も同様の耐性を示したら研究機関に確認してもらう、「カテゴリーB(国内でまれに分離される)」の耐性菌についても再検査を行うことを促しています。是非このリストを検査室に貼るなど活用して、「疑わしきは再検査」の意識を徹底していただければと思います。
JANISには「信頼できるナショナルデータを提供する」という使命がありますので、データの精度管理に参加医療機関の協力をお願いしています。一方、日本全体の院内感染対策および検査室のレベル向上についてもサポートしたいと考えています。