取り組み
医療現場は、感染症の原因となる微生物が蔓延するリスクの高い環境にあります。
・入院患者の7~10%、集中治療室にいる患者の33%が、医療関連感染症に1回以上罹患しています1, 2。
・長期にわたる急性期医療現場で見られる医療関連感染症の25%で、薬剤耐性菌が原因となっています1。
推奨事項:
医療関連感染の拡大を低減するため、すべての医療機関で十分な洗浄と消毒のプロトコールを実施し、感染性廃棄物を適切に処理する必要があります。このような手順の質を改善すること、及び先進的な除染技術を導入することが必要とされています3。
1 Review on Antimicrobial Resistance. Infection prevention, control, and surveillance: Limiting the development and spread of drug-resistance. London, England: Wellcome Trust and HM Government; 2016.
2 World Health Organization. Report on the burden of endemic health care-associated infection worldwide. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2011.
3 Boyce JM. Modern technologies for improving cleaning and disinfection of environmental surfaces in hospitals. Antimicrob Resist Infect Control. 2016;5:10.
適切な予防策がとられなければ、医療従事者などが感染源となる可能性があります。
・医療従事者のほぼ100%が推奨される手洗い手順を実践していると自己回答したものの、実際に遵守していたのはわずか40%でした1。
推奨事項:
徹底した正しい手洗いの実践は、医療現場において感染を予防・管理する唯一かつ最も効果的な措置といえます4。抗菌ハンドソープなどの手指消毒に用いられる製品は、手指を清潔にして医療現場における感染リスクを低減させるために有効な手段です5。
1 Review on Antimicrobial Resistance. Infection prevention, control, and surveillance: Limiting the development and spread of drug-resistance. London, England: Wellcome Trust and HM Government; 2016.
4 Pittet D, Allegranzi B, Sax H, et al. Evidence-based model for hand transmission during patient care and the role of improved practices. Lancet Infect Dis. 2006;6(10):641–652.
5 Weinstein RA. Controlling antimicrobial resistance in hospitals: infection control and use of antibiotics. Emerg Infect Dis. 2001;7(2):188–192.
医療機器や外科的処置は感染源となる可能性があります。
・中心静脈カテーテル感染の17%、手術部位感染の14%、カテーテル関連感染の10%が、薬剤耐性菌によるものです6。
・カテーテル関連血流感染症は、英国における院内感染の10~20%を占めており、集中治療室の長期滞在や死亡率の上昇とも関連しています7。
推奨事項:
中心静脈カテーテル及び静脈内カテーテルは、適切な使用に関するトレーニング基準に従う必要があります6。適切な消毒薬や皮膚消毒法、ドレッシング剤を用いることで、手術部位感染のリスクを最小限にできます8。閉鎖式のニードルレス静脈アクセスポートを使用することにより、患者の血流に微生物が侵入するリスクを低減します9。
6 Centers for Disease Control and Prevention. Making health care safer: Protect patients from antibiotic resistance. Atlanta, GA: Centers for Disease Control and Prevention, US Department of Health and Human Services; 2016.
7 Gahlot R, Nigam C, Kumar V, Yadav G, Anupurba S. Catheter-related bloodstream infections. Int J Crit Illn Inj Sci. 2014;4(2):162–167.
8 Centers for Disease Control and Prevention. Basic Infection Control and Prevention Plan for Outpatient Oncology Settings. Atlanta, GA: Centers for Disease Control and Prevention, US Department of Health and Human Services; 2011.
9 Blake M. Update: Catheter-related bloodstream infection rates in relation to clinical practice and needleless device type. Can J Infect Control. 2008;23(3):156–160, 162.
患者は医療従事者や他の患者、またしばしば自分自身に対して病原体を伝播させる感染源となる可能性があります。
・最大30%の人が、潜在的に有害な黄色ブドウ球菌を保菌しています10。
・最大7.2%の入院患者が、一般に使用されている抗菌薬に耐性をもつメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を保菌しています11。
・カテーテル関連血流感染の大半と手術部位感染の大多数が、患者自身が保有する細菌に起因しています12, 13。
推奨事項:
医療機関は、利用可能な検査法により、有害な菌をスクリーニングするためのプロトコールを確立しておく必要があります。患者が有害な菌を保有している場合、医療施設と医療従事者は適切に対処する必要があります。感染症の拡大は、アウトブレイクに対する認識、適切な治療、薬剤耐性菌保菌患者の隔離、推奨される感染管理方法の遵守、個人保護具の使用によって低減できます14。
10 Wertheim HF, Melles DC, Vos MC, et al. The role of nasal carriage in Staphylococcus aureus infections. Lancet Infect Dis. 2005;5(12):751–762.
11 Davis KA, Stewart JJ, Crouch HK, Florez CE, Hospenthal DR. Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) nares colonization at hospital admission and its effect on subsequent MRSA infection. Clin Infect Dis. 2004;39(6):776–782.
12 Maki DG. Infections caused by intravascular devices used for infusion therapy: Pathogenesis, prevention, and management. In: Bisno AL, Waldvogel FA, eds. Infections Associated with Indwelling Medical Devices. 2nd ed. Washington, DC: American Society for Microbiology; 1994:151–212.
13 Wenzel RP. Minimizing surgical-site infections. N Engl J Med. 2010;362(1):75–77.
14 Siegel JD, Rhinehart E, Jackson M, Chiarello L, Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee. 2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings. Atlanta, GA: Centers for Disease Control and Prevention, US Department of Health and Human Services; 2007.
初回診察の後、患者には不要または無効な抗菌薬が頻繁に処方されています。
・米国で処方された抗菌薬の少なくとも30%が不要なものでした15。
・発展途上国における感染症ではほとんどの場合、検査が有効に活用されることなく、経験的治療が行われており、さらに不要な抗菌薬の使用例を増加させています16。
推奨事項:
抗菌薬による治療の必要性を判断する際、医師は感染の直接的または間接的なエビデンスとして診察で認められる症状と徴候に加えて、診断と治療に関する診療ガイドラインも検討する必要があります17。資源の少ない国や医療施設では、アクセスの促進と費用対効果の高い検査の実施に対する支援が必要です。
15 Fleming-Dutra KE, Hersh AL, Shapiro DJ, et al. Prevalence of Inappropriate Antibiotic Prescriptions Among US Ambulatory Care Visits, 2010-2011. JAMA. 2016;315(17):1864–1873.
16 Sosa AJ, Byarugaba DK, Amábile-Cuevas CF, et al, eds. Antimicrobial Resistance in Developing Countries. New York, NY: Springer; 2010.
17 Boyles TH, Wasserman S. Diagnosis of bacterial infection. S Afr Med J. 2015;105(5):419–421.
ウイルスに感染した患者に対して、ウイルスに効果がないにもかかわらず、抗菌薬が頻繁に投与されています。ウイルス性感染か、または細菌性感染であるかを鑑別可能な検査は、特に発展途上国において利用することができず、普及していません16。
・ほとんどの上気道感染症はウイルスが原因であるにもかかわらず、その50%に抗菌薬が投与されています18。
推奨事項:
エビデンスに基づく処方を可能にする検査が標準の診断になる必要があります。感染の種類や原因を迅速に特定する迅速診断(POC)は、抗菌薬の不適切な過剰処方を低減させます16。
16 Sosa AJ, Byarugaba DK, Amábile-Cuevas CF, et al, eds. Antimicrobial Resistance in Developing Countries. New York, NY: Springer; 2010.
18 Caliendo AM, Gilbert DN, Ginocchio CC, et al. Better tests, better care: Improved diagnostics for infectious diseases. Clin Infect Dis. 2013;57(suppl 3):S139–S170.
抗菌薬の感受性検査は、使用する抗菌薬が有効であるか、または薬剤耐性に関連するか確認する上で重要です19,20。しかし、多くの発展途上国ではこのような感受性検査を実施することは一般的ではありません20。
・最貧国において、微生物学検査室を持つ医療機関で治療を受ける患者は1%未満です16。
推奨事項:
抗菌薬による治療が有効であるかどうかを判断するために薬剤感受性検査の実施が推奨されています。発展途上国も含めて、すべての国で基本的な微生物学的検査と医療機関を受診できる環境を改善する必要があります。迅速で費用対効果の高い新規の自動化診断法が求められています19。
16 Sosa AJ, Byarugaba DK, Amábile-Cuevas CF, et al, eds. Antimicrobial Resistance in Developing Countries. New York, NY: Springer; 2010.
19 Jorgensen JH, Ferraro MJ. Antimicrobial susceptibility testing: A review of general principles and contemporary practices. Clin Infect Dis. 2009;49(11):1749–1755.
20 Laxminarayan R, Bhutta Z, Duse A, et al. Drug Resistance. In: Jamison DT, Breman JG, Measham AR, et al, eds. Disease Control Priorities in Developing Countries. 2nd ed. Washington, DC: The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank; 2006:1031–1051.
抗菌薬による治療を必要とする患者には、そのような治療に受けられる環境が不可欠ですが、世界各国で抗菌薬を処方する診療体制は一様でなく、一部の国では市販薬として入手することもできます。
・発展途上国では、しばしば抗菌薬による緊急治療が必要な感染が進行した状態を呈する患者が認められます。小児の肺炎治療など特定の患者集団では幅広く医療を受けられる環境が必要です。すべての国において、抗菌薬の過剰な使用を抑制しながらも本当に必要とする患者には抗菌薬治療を受けることができるようなバランスを考慮した医療体制が求められています。
推奨事項:
世界規模で抗菌薬の適正使用と一貫した処方体制が必要とされています。遠隔地域における検査技師の人員拡充や簡便で費用対効果の高い迅速な診断検査の普及など、国家レベルで検査システムを強化するための取り組みには、政府をはじめ、公衆衛生当局、保健財団や民間セクターによる優先的な資金援助および支援が必要です16。
16 Sosa AJ, Byarugaba DK, Amábile-Cuevas CF, et al, eds. Antimicrobial Resistance in Developing Countries. New York, NY: Springer; 2010.
サーベイランスは感染管理に重要な役割を担いますが、多くの国で資金不足が続いています。
・世界各国における協調体制や情報共有が不十分であるために、多くの地域において抗菌薬の使用量と薬剤耐性の発生に格差が生じています21。
推奨事項:
サーベイランスツールは、感染症を患い抗菌薬の治療を要する患者を効率的に特定するために、多様な情報源からデータを取り込むために使用されます。これらのデータは、ほぼリアルタイムで入手することができるため、医師による最適な治療方針の決定および抗菌薬の選択を可能にします。
21 World Health Organization. Antimicrobial resistance: global report on surveillance 2014. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2014.
サーベイランスによって、耐性菌の検出や流行およびアウトブレイクの発生を確認することができます。
・世界各国の多くの地域では、検査能力や基本設備、およびデータマネジメントが不十分であり、有効なサーベイランスの実施を妨げています22。
推奨事項:
効果的なサーベイランスには、新興感染症や薬剤耐性菌、および異常な感染症の発生を早期に検出する警告システムも備える必要があり、アウトブレイクの予防や対策を実施することができます。
22 World Health Organization. Worldwide country situation analysis: response to antimicrobial resistance. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2015.
世界の多くの地域では、検査データにアクセスできる環境を整えていますが、それらの検査データは、サーベイランスの取り組みおよび適時な治療薬の選択を最適化するフォーマットではありません23。
・サーベイランスのデータには大きな格差が認められ、このような制限のあるデータに基づく治療方針では抗菌薬の耐性化を助長させる可能性があります21。
推奨事項:
抗菌薬の治療および患者の転帰を最適化するためには、適切な抗菌薬が処方されているかを継続的にモニタリングする必要があります。患者の診断情報に加えて、耐性菌の流行情報や適時なデータ配信を医療提供者に提供することで有効な抗菌薬の治療意思決定を促します23。
21 World Health Organization. Antimicrobial resistance: global report on surveillance 2014. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2014.
23 World Health Organization. Surveillance standards for antimicrobial resistance. Geneva, Switzerland: World Health Organization, 2002.
抗菌薬の使用および耐性データは、地域レベルから地方および国家レベルまでの介入を導きます。
・ほとんどの発展途上国は、抗菌薬の耐性や使用状況をモニタリングするシステムや介入の効果を評価するシステムを保有していません24。
推奨事項:
包括的で強固な感染コントロールには、介入の効果および抗菌薬処方の妥当性を評価する業務も含まれます。公衆衛生当局には、地域レベルから地方および国家レベルまでのサーベイランスの取り組みを支えるために、抗菌薬の使用状況および感染データの伝達を促進させる基盤を整えるサポートが求められています。
24 World Health Organization. Community-based surveillance of antimicrobial use and resistance in resource-constrained settings: report on five pilot projects. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2009.
ソリューション
BDはAMRの抑制に貢献する重要なソリューションを取り揃えています。私たちは、医療施設の中での感染症の蔓延を防ぐ幅広いな医療用製品、薬剤耐性菌を含む感染症をスクリーニング・検査・診断するためのシステム、ならびにAMRのアウトブレイクをモニタリング・追跡・予測する最先端のサーベイランスや報告機能を提供しています。
感染症予防
医療関連感染の発生と薬剤耐性菌の蔓延リスクを低減します
検査・検査と抗菌薬使用
医師が感染症を正確に特定し、適切な治療計画を立て、不要な抗菌薬の使用回避を可能にします
サーベイランスと報告
薬剤耐性のリスクが最も高い患者さんの特定、抗菌薬適正使用の推進、アウトブレイクの早期発見、および母集団ごとの傾向をモニタリングします
Global Collaborations
AMR Event
第7回日経・FT感染症会議
COVID-19 のパンデミッ クで海外渡航などが制限されている中、リモート技術も駆使して世界各国の産学官公民の感染症対策のキーパーソンが神奈川県横浜市に集まり、2020年11月6日から7日にかけて第7回日経・FT感染症会議をが開催されました。
ランチセッション「感染症における検査のあり方~COVID-19から学ぶ~」の模様を動画でご覧いただけます。
>>ご視聴はこちら
AMR Event
UN General Assembly Meeting
2016年9月21日、ニューヨークで開催された国連総会において、AMR(薬剤耐性)をテーマとしたハイレベルな会議が行われ、抗菌薬に耐性をもつ感染症の拡大抑制について、世界のリーダーたちがかつてないほどの関心をもって、終日話し合いました。
“Committing to Diagnostic Solutions to Tackle Antimicrobial Resistance” と題したパネルディスカッション
2017年1月、スイス・ダボスでのWorld Economic Forumにて
写真は左から:
Dr. John Nkengasong, CDC, Dr. Catharina Boehme, FIND, Kjersti Grimsrud, Alere, Vincent A. Forlenza, BD, Renuka Gadde, BD, Dr. Rosanna Peeling, LSHTM and IDC, Jean-Luc Bélingard, bioMérieux S.A., Dame Sally Claire Davies, U.K. Government
もっとAMRを知る
AMR(薬剤耐性)を防ぐために患者さんができること
- 医師から処方されたときのみ、抗菌薬を服用します
- 抗菌薬は医師の指示に従って、最後まで服用してください
- 残った抗菌薬を他の人にあげたり、自分の判断で服用したりしないでください
- インフルエンザなどのウイルス感染症に対して、医師から処方されたとき以外は抗菌薬を服用しないでください(抗菌薬は細菌にしか効きません)
- こまめな手洗い、衛生的な調理や定期予防接種を心がけ、患者さんとの密な接触には注意して感染症を予防しましょう
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