以下に紹介するのは、とある有料老人ホームにおける架空の集団感染の事例である。下線が引かれている部分が、しばしば見受けられる集団感染に繋がりかねないピットフォールと言える。
入居者40人の有料老人ホーム。看護師は常駐していない。
80代の入居者Aが発熱した。①COVID-19の抗原検査を実施したが陰性だったため、COVID-19ではないと考えて解熱剤を内服させて様子をみることとした。なお、②この入居者は久しぶりに一時帰宅して、3日前まで親族たちと過ごしていた。
入居者Aが発熱した2日後より、同一フロアで発熱する入居者を認めるようになり、3日後には5人にまで増えた。抗原検査を実施したところ、5人のうち入居者Aのほか2人が陽性だった。抗原検査が陽性だった3人は個室内に隔離したが、陰性だった2人については、③解熱剤を飲ませると元気だったので、そのままデイルームの利用を認めることとした。
数日後、フロアで働く職員Bが発熱し、近隣の診療所を受診した。抗原検査が陽性であり、5日間は仕事を休んだ方がよいと医師より伝えられた。その5日後、④当該職員には微熱と風邪症状が残っていたが、他に迷惑をかけたくないと勤務を再開した。
その後、この職員がケアにあたっていた入居者が次々と発熱した。終息までに入居者の半数近くの18人が発症し、このうち4人が状態を悪化させて救急搬送された。
①抗原検査で感染は否定できない
COVID-19やインフルエンザの抗原検査は、発症日の感度は必ずしも高くなく、感染していても偽陰性となるリスクがある。このため、発症日に検査して陰性でも感染を否定してはならない。検査感度を高めるためには、感度が高い発症から3日目前後に再検査を行う。それでも偽陰性はありうるため、有症状者については感染性があるものとして対応する必要がある。
②外泊後の発熱は隔離を前提とする
COVID-19やインフルエンザが地域流行している状況では、入居者が外泊先で感染して施設に戻ってくる可能性がある。特に子や孫の帰省など多人数が集まるイベントに参加した場合の感染リスクは高いと考える。よって、外泊後1週間程度は症状を観察し、発熱や風邪症状を認めたときは、検査結果によらず、他の入居者との接触がないよう隔離する。
③有症状者のデイルーム利用は控える
発熱や新たに出現する咳嗽を認めている利用者については、COVID-19やインフルエンザの診断によらず、できるだけ室内で療養いただくことを原則とする。これは施設内における感染拡大を防ぐだけでなく、本人の安静を保つことで療養環境を保つことでもある。ただし、トイレが自室内にない場合には、マスク着用のうえで利用を認めたり、入浴は最後の利用としたりするなど、柔軟な対応は検討したい。
④症状が残っているときは仕事を休む
COVID-19では、発症後3日間は、感染性のウイルスの平均的な排出量が非常に多く、5日間が経過すると減少するとされる。このため、厚生労働省は、発症後5日間は他人に感染させるリスクが高いことから、外出を控えるよう推奨している
7)。ただし、症状が軽快して24時間程度が経過するまでは、外出を控えて様子を見ることを推奨しており、症状が続いている場合は、仕事を休むことが望ましい。特に介護などで密着するケアにあたる場合には、マスクを着用するなど感染対策を心がけたとしても感染を拡げる可能性が高い。社会福祉施設における隔離期間の考え方について、図1に整理している。職場に余力があれば、7日間の就業制限とすることが望ましいが、発熱が24時間なければ6日目以降の就業は可能である。ただし、確実なマスク着用や手指衛生を遵守していただくことが条件となる。また、発症10日目までは、事務作業を中心とし、食事介助や入浴支援など密接になりがちなケアは避けていただいた方が良い。
図1 COVID-19陽性者の隔離期間の考え方