Q7 検出作業を進めるに当たってSARS-CoV-2のどのような実態が明らかになってきたのでしょうか。
石井 若年者で大量のウイルスを排出する(Ct値が低い)人の中に無症状の感染者がいたことから、感染者のすべてが重篤な状態になるわけではないことがわかりました。そもそもCt値は核酸抽出試薬と増幅試薬の組み合わせで大きく異なります。これに加えてPCR増幅装置・検出装置が異なれば同一の検体対象に検査しても、Ct値は異なります。こうしたことからCt値より国際的に統一された単位(IU/mL)を報告すべきですが、日本ではまだ浸透していません。さらに多くの人に「96ウェルPCRプレートはどこも均一に増幅できる」と思われています。しかし、実際はウェルごとに異なるためその評価も必要になります。
青木 日本国内でも感染者・重症者が出始めたことで「国民すべてを検査しなければ」との極端な意見も聞かれました。一方で無症候の感染者も多く、検査の目的が見失われていたと言えるでしょう。検査は基本的には診断のために行うものであり、感染制御の目的においては、重要なケースに対象を絞ってPCR検査を実施すべきだと考えています。しかし当時はPCR検査が感染対策に適しているのかどうかとの基本的な議論がまともにされていない中で「感染者が出たら周囲の人にもとにかくPCR検査を」との論調が強く、私はこれには賛同できませんでした。
今後は特に医療従事者を守るための院内PCR検査が重要になってくるでしょう。検査結果に基づいた適切な対策を講じることも求められます。また、基本的には一発勝負であるPCR検査の精度を高く適切に実施し、トラブルシュートできる優秀な人材を増やしていくことも重要になってきます。
石井 当時は科学的根拠のない誤った情報が拡散していました。こうした事態の中で最も重要なことは、しかるべき方々や機関が正しい情報を伝えることです。このCOVID-19感染禍においても感染症領域の多くの先生が正しい情報の提供に努力されました。新たな危機が発生したときは、正しい情報を提供することで、間違った方向に突き進んでしまうことを防ぐことが求められます。