3. 院内感染について　パートI

*2　MRSA（エムアールエスエー）

ペニシリンや多くのクスリ（抗菌薬*8）が全く効かなくなった黄色ブドウ球菌で、耐性菌と言われるもののひとつ。複数の抗菌薬が効かないことより多剤耐性菌（たざいたいせいきん）とも呼ばれ、問題となっている。
通常は無症状で悪さをしないが、手術後など、からだが弱った状態（抵抗力の落ちた易感染状態）だと、創感染症（手術した箇所が化膿する）、敗血症（血液・血管の中に菌が入って炎症を起こす）、腸炎などの原因となる。

*3　VRE（ブイアールイー）
腸球菌（ちょうきゅうきん）には、本来バンコマイシンというクスリが有効。しかし、バンコマイシンが全く効かなくなった腸球菌もあり、これはVREと呼ばれ、耐性菌のひとつ。
腸球菌は、人や動物の腸の中にいつもいる菌（常在菌）の一種で、通常は、ほとんど悪さをしないが、術後など、からだが弱った状態だと、術創感染症、敗血症、尿路感染症や腹膜炎を起こすことがある。
腹膜炎；胃腸、肝臓など臓器の入っている腹腔（ふっくう）に炎症を起こした状態。

*4　緑膿菌
病院内の流しや、排水溝などの一般環境や自然界で水のあるところ、湿ったところに多数生息する。
通常は、ほとんど悪さをしないが、抵抗力の落ちた易感染性の人には、創感染症、褥瘡（じょくそう；床ずれ）感染症、敗血症、尿路（おしっこの通る経路）感染症、気道（気管支や肺）感染症など、色々な感染症を起こす。 複数の抗菌薬が効かなくなったもの（多剤耐性菌）が存在して、問題となっている。
日和見（ひよりみ）感染を起こす代表的な菌でもある。
日和見感染；からだの抵抗力が落ちて、通常は悪さをしないような菌が悪さをするようになった状態。

*5　セラチア
水中など、自然界に広く分布する極めてありふれた菌の一種。
人の腸の中でもみられる場合がある。
通常はほとんど悪さをしないが、抵抗力の落ちた易感染性の人には、術創感染症、創傷感染症、肺炎や敗血症など色々な感染症を起こす。
複数の抗菌薬が効かなくなったもの（多剤耐性菌）が存在して問題となってい
る。日和見感染を起こす代表的な菌でもある。

*6　結核菌
肺結核などと言った結核症の原因菌。
患者の咳などによって吐き出された飛沫（正確には飛沫核*7）によって感染（空気感染）する。市中でも感染を引き起こすことがあり、特に易感染性の人の場合は、症状が悪化する。
複数の抗菌薬が効かなくなったもの（多剤耐性菌）も近年確認され、問題となっている。

*7　飛沫核（ひまつかく）
咳によって吐き出される、結核菌を含んだ飛沫（ツバキ）の水分がとんだ（蒸発した）もの。
非常に軽く、いつまでも空気中をただよって、感染していない人にも吸い込まれる。

*8　定着
感染と同じく菌が居着いた状態であるが、悪さをしていない共生（きょうせい）状態なので、感染とは分けて考える。コロナイゼーションとも言う。正常細菌叢（せいじょうさいきんそう；第1回参照）も構成する。

*9　抗菌薬（こうきんやく）
細菌に直接作用して、これらを殺滅するクスリを抗菌薬という。
抗菌薬のことを抗生物質（こうせいぶっしつ）という場合もある。その他、カビに効くものを抗真菌薬（こうしんきんやく）、ウイルスに効くものを抗ウイルス薬と言う。
抗菌薬を使用した治療を原因療法と言う。
これに対して、症状を抑えるための治療は対症療法（第1回感染症ってなに？を参照）。