2-5. SARS

監修: 岡部信彦 先生(川崎市健康安全研究所 所長)

新型コロナウイルスによる重症の肺炎

2003年の春先に海外の一部地域で流行した「SARS」(重症急性呼吸器症候群)は記憶に新しいところです。原因となったウイルスは、ふつうの鼻かぜをひきおこすコロナウイルスとは全く異なる新たなウイルスで、SARSコロナウイルスと命名されました。

「SARS」は肺炎となったSARS患者さんと近い距離での接触(1〜2m程度)で感染を受けることがほとんどです。治療法やより確実な検査手法の開発が各国ですすめられています。

SARSの症状をチェック

Check!
「SARS」と「インフルエンザ」の初期症状はよく似ています。また、重症化して肺炎に進行した高齢者では致死率が高いことも共通していますが、「SARS」となった人の致死率は全体で10%ぐらいです。2〜10日間(平均5〜6日)の潜伏期間を経て発症しますが、急速に肺炎としての症状が進みます。

潜伏期間(症状のない時期)は他の人へうつす心配はまずありませんが、発熱すると感染の可能性がやや出てくるので注意が必要です。肺炎になると感染力が高まります(一人のSARS患者から平均2〜3人に拡げる)。
イラスト:SARSの症状
初期症状(1〜数日)
※「インフルエンザ」の症状に類似

□ 38度以上の熱が出る

□ 関節や筋肉の痛み

□ せきがでる

□ 頭痛がする


肺炎期
※この時期は症状が悪化し感染力が強くなることがあるので要注意

□ せきがひどくなる

□ 息が苦しくなる



「これさえやれば『SARS』を防げる」という方法は、残念ながらありません。
一番の予防法は、肺炎となったSARS患者との無防備での接触を避けることです。

重症化したときに強い感染力をもちます

「SARS」の感染が広まった中心は「SARS」ということが不明の時期に入院した患者さんを診療していた病院でした。「SARS」の特徴は、重症化した患者さんを看護したり、診察した医療関係者が多数感染していることです。当時、この感染症の原因や性質がわかっていなかったことと、感染症に対する予防策をとらずに看護にあたっていたことが、感染拡大の理由といわれています。感染経路として接触感染と飛沫感染の両方が考えられています。

一部地域での流行にとどまったのは、発症した初期の感染力が比較的低いためと考えられています。感染力は「インフルエンザ」のほうが強いといわれ、また「SARS」は「インフルエンザ」のように町中で感染が拡がる可能性(市中感染)はほとんどないと考えられるようになりました。

感染の拡大防止が重要です

「SARS」が最初に発生したと思われる地域、流行している地域から戻ったのちに熱が出るなど感染が疑われる場合、すぐ「SARS」の診療受け入れが可能な医療機関を受診してください。保健所へ問い合わせると全国約500ヶ所の受け入れ医療機関の中から最寄りの施設を教えてもらえます。初期に受診することで感染力が増す前の、早目の対処ができ、感染拡大を防ぐことにもつながります。

ご家族や周囲の方への感染の拡大を防ぐためにも、熱、くしゃみやせきが出る場合はマスク・手洗いを行い、熱があるのに外出したりせず、早目に保健所や医療機関に相談をしてください。
イラスト:「体がイタイ 熱があるけど会社に行かなきゃ…」「うつすだけよ!みんなの迷惑になるから病院に行くわよ!」

入院時の隔離・感染拡大防止策にご理解を

イラスト:防護マスク、ゴーグル、手袋着用イメージ
「SARS」と判定された場合、受け入れ医療機関では他の人にうつさないために「SARS」の患者さんを隔離する必要があります。また、接触による感染を防ぐために厳重な防護マスクやゴーグル・手袋などをして看護にあたります。感染拡大の防止には非常に重要なことなので、ご理解とご協力をお願いいたします。

対症療法で回復を待ちます

現在のところ、「SARS」コロナウイルスに直接効く抗ウイルス薬はありませんが、いくつかの方法が試みられています。80〜90%の方の入院期間は1〜2週間が目安となりますが、肺炎症状の程度によって異なります。

岡部先生からのお話のまとめ

(国立感染症研究所・感染症情報センター・センター長)
  • 新型のコロナウイルスによる「SARS」になった人はこれまでのところ世界で8098名、うち死亡者は774名です。市中感染のおそれは低いため、そのほとんどは肺炎となった「SARS」の患者さんとの近い距離(1〜2m)での接触が原因ですので、流行のないところで日常の生活をしている方が、ことさら心配することはありません。

  • むやみにこわがる必要はありませんが、「SARS」が最初に発生したと思われる地域や、現在流行が確認された地域に旅行された方、ことに「SARS」の患者さんと接触の可能性があり、10日以内に発熱があるなどの心当たりのある方は、早めに保健所や医療機関に相談することが、ご自身やご家族のためにもなります。