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I's eye: 市中で広まるPRSP

ペニシリン耐性肺炎球菌
2005年11月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

今回は、特に市中感染症を引き起こす薬剤耐性菌として重要なペニシリン耐性肺炎球菌についてお話しします。

ペニシリン耐性肺炎球菌

●ペニシリンに対して耐性を獲得した肺炎球菌を、PRSP(Penicillin-Resistant Streptococcus pneumoniae)という
●肺炎球菌はヒトの咽頭に常在しており、保有率は成人で5%、小児で15%程度とされる
●大葉性肺炎、血流感染(敗血症)、髄膜炎、中耳炎等から検出され、重症例も多い
●臨床材料からの最初のPRSP分離報告は1967年、国内では1981年
●ペニシリンに対する感受性をもとに感性(PSSP)、中間(中等度耐性: PISP)、耐性(PRSP)に分類

組織について

肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は上気道の常在菌で、また呼吸器感染症の主要な起因菌でもあります。本来は種々の抗菌薬、特にペニシリンに対して良好な感受性を示していました。
 しかし、1967年に耐性菌(PRSP)が分離されて以来1)年々その分離比率は高まり、市中感染菌でもあることから大きな問題となっています。日本では、PRSP/PISPの分離率が50%前後を示す医療施設が多くなっており、無症状のいわゆる定着例と考えられる事例も多いと言われています2)
 肺炎球菌とはどのような構造を持つ菌なのでしょうか。肺炎球菌の菌体を守る強固な架橋構造を有する細胞壁は、ペニシリン結合タンパク(PBPs)によって合成されます。「架橋」とは分子と分子の間に橋を架けるという意味ですが、この架橋構造により丈夫な細胞壁が形成されるのです。
 ペニシリン等のβ−ラクタム系抗菌薬はPBPsに結合して、酵素活性を阻害します。その結果、細胞壁は合成されなくなって、菌は死滅します。ところが、PBPsのペニシリン等との親和性が低下すると、つまりPRSP/PISP化すると、細胞壁の合成が阻害され難くなって、菌は生き残ることになります。
 肺炎球菌は主に市中で感染を引き起こしますが、院内感染菌としても重要で、院内感染原因菌の約5%はPRSP/PISPであるとの報告もなされています3)。
 PRSP/PISP感染治療にはニューキノロン系抗菌薬(フルオロキノロン)も使用されます。しかし、既にフルオロキノロンに対する耐性菌も報告されており、さらなる耐性化を防ぐためには抗菌薬の適正使用を心掛けなければなりません。
 院内での感染拡大防止のためには、咳等による飛沫感染を防ぎ、そして医療従事者の手指、医療機器、リネンを清潔に保つ必要もあります。感染を防ぐ手だてとして、ワクチン接種を考慮しても良いでしょう。ワクチン接種は1回しかできませんが、23の血清型(感染の80%を占める)に有効と言われています。
 多くはペニシリンに耐性化してしまった、そしてフルオロキノロンにも……。いま、私たちはこのような肺炎球菌と向き合っているのです。

参考文献

1)Hansman, D. et al.: A resistant pneumococcus. Lancet ii: 264-265, 1967
2)IDWR(感染症発生動向調査週報)ホームページ 感染症の話 2000年第32週 http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/index.html
3)JANIS院内感染対策サーベイランス季報 https://www.spc-svr.jp/janis/idsc/season/kihosentaku.html
4)感染症研究所 IASR(Infectious Agents Surveillance Report) 2000年 http://idsc.nih.go.jp/drug/bdd191/dd2241.html
(文責: 日本BD 武沢敏行)